社内のカスハラ対応マニュアルを、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を下敷きに作った会社は少なくありません。そのマニュアルが、防止措置の義務化(2026年10月1日施行)を前に改訂されました。厚生労働省のページでは「令和8年9月8日更新」と表示されています。

改訂版は、令和3年度に作られた版を法改正等の内容を反映する形で更新したものです。全体が書き直されていますが、この記事では電話対応に関わる記述、つまり録音、証拠、対応時間の3点に絞って、旧版と文言を並べて読みます。自社のマニュアルを旧版から写している場合、どこが古いままになりやすいかを確かめる材料になります。

この記事でわかること

  • 改訂版の位置づけと、今後の再改訂の予定
  • 電話対応の録音について、旧版と改訂版で文言がどう変わったか
  • 証拠の集め方と、録音・録画に付いた注記
  • 対応を打ち切るまでの時間が、どう書かれるようになったか
  • 旧版を下敷きにした社内マニュアルで見直す箇所

改訂版は「確定版」ではなく、再改訂が予告されている

改訂版の冒頭(p.2)には、令和3年度に作成されたマニュアルを「法改正等の内容を反映する形で更新・改訂しました」とあります。あわせて、令和8年度内にカスタマーハラスメント対策に取り組む企業からヒアリングを行い、その内容を追記して「再改訂を行う予定」とも書かれています。

社内マニュアルに改訂版の記述を取り込む場合は、どの版に基づいたのかを「2026年9月8日更新版」のように書き残しておくと、再改訂が出たときに差分を追いやすくなります。義務化の内容そのものはカスハラ対策の義務化で企業が求められることで整理しています。

電話の録音は「専用電話」の話ではなくなった

もっともはっきり変わったのが、電話での対応の最初の項目です。

版記述(原文)
令和3年度版苦情を専門に受け付けるため、専用電話を設置して録音が出来るようにしておく。
改訂版(p.27)通話内容を録音できるようにしておく。

旧版は、苦情専用の電話を設けて、その電話で録音できるようにするという書き方でした。改訂版では「専用電話を設置して」が消え、通話内容を録音できるようにしておく、という一文になっています。厚生労働省はこの書き換えの理由を説明していないため、意図を読み込むことはできません。文言として確かなのは、録音の対象が「苦情専用の電話」に限られた書き方ではなくなった、という点です。

実務に置き換えると、確認したいのは「困った電話がどの番号・どの席にかかってくるか」です。苦情は代表番号にも、営業担当の直通にも、店舗の電話にもかかってきます。専用の窓口だけに録音を置いた設計のままだと、改訂版の書き方に照らして抜けている電話があるかもしれません。

一方で、変わっていない記述もあります。対面・電話・訪問に共通する対応として書かれた「必要があれば相手の了解を得て録音する」(p.26)は、旧版と同じ文言です。電話の仕組みとして録音できるようにしておくことと、目の前の相手に録音を告げることは、別の項目として並んでいます。告知の言い回しは通話録音の告知アナウンス文例を参考にできます。

証拠は「第三者が検証可能」に、録音には個人情報保護法の注記

カスハラが疑われる場面で何を集めるかの記述も変わっています。

版記述(原文)
令和3年度版録音・録画・対応記録・時間の計測など検証可能な証拠を収集します。
改訂版(p.25)録音・録画・対応記録・時間の計測など、第三者が検証可能な証拠を収集します。

加わったのは「第三者が」の一語です。当事者の記憶や感想ではなく、後から相談窓口や本社、場合によっては弁護士や警察が見て確かめられる形で残す、という方向がはっきりしました。

さらに改訂版では、この「録音・録画」に注記が付き、「個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと」とされています。旧版にはこの注記がありませんでした。同じ注記は、相談を受けた側が事実関係を確認する場面の「録音・録画等の客観的な証拠で相談者とともに確認」(p.37)にも付いています。

録音を始めることだけでなく、保存した音声を誰が、どの目的で、いつまで扱うかまでがマニュアルの守備範囲に入ってきた、と読むことができます。記録の残し方と保存後の扱いはカスハラの証拠をどう残すかで詳しく扱っています。

対応を打ち切るまでの時間に、数字の例が入った

長時間の電話や居座りといった「拘束的な言動」への対応例(p.29〜30)にも、目立つ変化があります。旧版は「膠着状態に至ってから一定時間を超える場合」に電話を切る、という書き方で、時間の長さは書かれていませんでした。改訂版では「一定時間(30分程度)」と例が入り、それでも帰らない場合について「計1時間程度」という目安も加わっています。

ただし、改訂版はすぐ後で「本項に記載の対応時間(30分、1時間)はあくまで一例」であり、具体的な時間は業種・業態も踏まえて各企業で決めるべきだとしています。身の危険を感じたときは、決めた時間に達していなくても警察への通報などに進んでよいことも明記されています。

電話対応の記録という観点で見ると、ここで数え始める時点は「膠着状態に至ってから」です。応答した時刻ではなく、対応できない理由を説明し終えても同じ要求が続き始めた時点が起点になります。後から「どこから数えて何分で切ったのか」を示すには、通話の開始・終了時刻だけでなく、その起点がいつだったかを記録から確かめられる状態が役に立ちます。

旧版を下敷きにした社内マニュアルで見直す箇所

改訂版と旧版の差を踏まえると、社内マニュアルで確かめたい点は次の4つに整理できます。

  1. 録音の範囲:「専用電話で録音」と書いたままになっていないか。苦情がかかってくる番号・席のうち、録音できないものはどれか。
  2. 証拠の書き方:「第三者が検証可能な証拠」として何を残すか。録音・録画の取扱いについて、個人情報保護法等に沿った社内ルールを参照しているか。
  3. 対応時間:打ち切りまでの時間を自社で決めて書いているか。数え始める時点を「膠着状態に至ってから」と定めているか。身の危険がある場合は時間を待たないことを書いているか。
  4. 引き継ぎの項目:本社・本部へ報告するときに共有する「対応状況確認事項(例)」(対応日時・場所、対応従業員、顧客等からの要望の内容、顧客等の情報、現場監督者の指示、対応結果など、p.31)を、記録の様式と揃えているか。

4つ目の引き継ぎ項目は、電話であれば通話の日時や対応者が記録から拾えるかどうかで、報告の手間が大きく変わります。電話対応マニュアル全体の組み立て方はカスハラ電話対応マニュアルの作り方で整理しています。

まとめ

2026年9月8日に更新された厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでは、電話対応に関して、録音の書き方が「専用電話を設置して録音」から「通話内容を録音できるようにしておく」へ変わりました。証拠は「第三者が検証可能」なものとされ、録音・録画には個人情報保護法等の遵守を求める注記が付きました。対応を打ち切る時間には「30分程度」「計1時間程度」の例が入りましたが、あくまで一例として、各企業で決めることが求められています。

旧版を写した社内マニュアルは、この3か所が古い書き方のまま残りやすい部分です。義務化された今、録音できる電話の範囲、記録の残し方と取扱い、打ち切りの時間の決め方を、自社の電話環境と照らし合わせて確かめておくと、現場が迷う場面を減らせます。

今お使いの電話環境で、どの番号・どの席の通話を録音できるかを確かめたい場合は、製品のご案内から導入形態ごとの違いをご覧いただくか、お問い合わせください。

出典

  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2026年9月8日更新版) 本文PDF(掲載ページ)
  • 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(令和3年度作成版) 本文PDF

本文中のページ番号は、各マニュアルに印刷されたページ番号です。制度の詳細や最新の情報は、厚生労働省の公表資料でご確認ください。本記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。