「録音していますと、どう切り出せばいいのか」「これ以上は対応できないと、角を立てずに伝えるには」——電話の現場では、一つひとつの言い回しに迷う場面が少なくありません。とっさの一言が出てこず、結果として担当者が一人で長時間抱え込んでしまうこともあります。
この記事では、録音告知のアナウンスから、要求がエスカレートしたときの応答、終話や上長交代に向けた段階的な言い回しまで、現場でそのまま使えるトーク例を文例で整理します。あわせて、それぞれの言葉を選ぶ意図も短く添えます。スクリプトは一律のマニュアルではなく、相手の状況に応じて調整する前提でご活用ください。
なお、ここで紹介するのはあくまで対応の言い回しの一例であり、法的な助言ではありません。個別の対応に迷う場合は、社内の規程や専門家の判断とあわせてご検討ください。
なぜ「言い回し」を用意しておくのか
人は、想定していない言動を向けられると、適切な言葉がとっさに出にくくなります。あらかじめ言い回しの型を共有しておくことには、二つの意味があります。
ひとつは、担当者を守ること。何と言えばよいかが決まっていれば、迷いや萎縮が減り、一人で抱え込みにくくなります。もうひとつは、対応にばらつきが出ないこと。同じ場面で人によって言うことが違うと、相手に「あの人はこう言った」と付け入る余地を与えてしまいます。
ただし、スクリプトは台本そのものではありません。正当な要望には誠実に応える姿勢を保ったうえで、状況に合わせて言葉を選ぶための「土台」と考えてください。
1. 冒頭の録音告知アナウンス例
通話の録音は、開始時にその旨を伝えるのが基本です。告知の目的は相手を威圧することではなく、品質向上と内容の確認のために録音していることを、淡々と共有することにあります。録音していることを伝えること自体が、行き過ぎた言動の抑止につながる場合もありますが、それだけで完全に防げるわけではありません。
自動音声(IVR)で流す場合の例です。
お電話ありがとうございます。お電話の品質向上と内容確認のため、通話を録音させていただいております。
ただいまの通話は、応対品質の向上と、内容を正確に確認するために録音しております。あらかじめご了承ください。
オペレーターが口頭で伝える場合は、次のように簡潔に添えます。
お電話ありがとうございます。応対品質向上のため、通話を録音させていただいております。担当の○○が承ります。
意図は、事務的に、当たり前のこととして伝えることです。「録音しますが、よろしいですか」と許可を求める形にすると、相手によっては「録音するな」という押し問答に発展します。同意を取る運用が必要な場合を除き、原則として「録音しております」と事実を共有する形が、無用なやり取りを生みにくくなります。
録音をなぜ行うのか、現場の運用にどう位置づけるのかは、録音という対策でくわしく解説しています。
2. 要求がエスカレートしたときの言い回し
声が大きくなったり、要求が繰り返されたりしたとき、まず大切なのは、こちらが感情で応じないことです。クッション言葉で一度受け止め、事実を確認する順序を意識します。
大きな声でのお話で、お困りのことと存じます。まずは状況を正確に把握したく、もう一度お聞かせいただけますでしょうか。
ご不便をおかけし、申し訳ございません。確認のため、いつ・どのような点でお困りになったか、順にお伺いしてもよろしいでしょうか。
意図は二つあります。ひとつは、相手の心情には理解を示しつつ、要求そのものに即答しないこと。「申し訳ございません」を要求全体への全面的な謝罪と切り離し、あくまで不便をかけた点へのお詫びにとどめます。もうひとつは、話を事実確認に引き戻すことです。感情のやり取りが続くほど対応は長引くため、「いつ」「何が」を具体的に確認する問いで、話を前に進めます。
応じられない要求には、できることとできないことを切り分けて伝えます。
ご要望は承りました。○○については対応いたしかねますが、△△であればこの場でお手続きできます。
ここで意図しているのは、「できない」で終わらせず、できる範囲を示すことです。線を引くことと、突き放すことは違います。正当な要望には、この段階でも誠実に応じる姿勢を保ちます。
なお、声が大きい・要求が繰り返されるといった様子が、ただちにカスハラだとは限りません。相手が高齢で聞き取りに時間がかかる、障害や体調など事情を抱えているといった場合もあります。手段や態様が一線を越えているかを見極めることが先で、線引きの考え方はこれってカスハラ?で確認できます。
3. 終話に向けた段階的な言い回し
同じ主張が繰り返され、対応が平行線になったときは、いきなり電話を切るのではなく、段階を踏んで終話に向かうのが基本です。順序は「要件の確認 → 対応範囲の説明 → 終話の予告 → 終話」です。
まず、要件をこちらから整理して確認します。
これまでのお話を整理しますと、ご要望は○○という点でよろしいでしょうか。
次に、対応できる範囲を改めて示します。
その点につきましては、先ほどお伝えしたとおり、○○までが私どもでできる対応となります。同じご説明の繰り返しとなり、恐縮でございます。
そのうえで、終話を予告します。
本日いただいたご要望は、責任を持って社内に共有いたします。これ以上ご説明できることがございませんので、お電話はこのあたりで終わらせていただきます。
最後に、礼を保って終話します。
お時間をいただき、ありがとうございました。失礼いたします。
意図は、終話を「予告してから」行うことにあります。前触れなく切ると「一方的に切られた」という新たな不満を生みます。予告を挟むことで、こちらの対応に一貫性が生まれ、記録の上でも経緯が明確になります。終話の判断や上長交代のタイミングは、通話時間や経緯の記録があると、担当者の主観に頼らず組織として下しやすくなります。
4. 上長へ交代する際の言い回し
担当者一人で続けるのが難しいと感じたら、無理に抱え込まず、上長や責任者に交代します。交代は「対応の格上げ」であって、担当者の力不足ではありません。
私だけでは判断いたしかねますので、責任者に代わって対応させていただきます。少々お待ちいただけますでしょうか。
あいにく私の権限ではご案内できかねる内容です。上の者に確認し、改めてご説明いたしますので、お時間をいただけますでしょうか。
意図は、「担当者個人」から「組織」へと対応の主体を引き上げることです。とくに、担当者個人を名指しした攻撃や謝罪の強要には、組織の対応に切り替えること自体が一つの線引きになります。交代を求めること、いったん保留にして折り返すことは、いずれも正当な対応です。担当者が「一人で抱えている」と感じた時点で交代を検討してよい、と社内で共有しておくと、現場が動きやすくなります。
5. 毅然と線を引きつつ、礼を失しない表現
暴言や脅しを示唆する言動があったときは、はっきりと、しかし冷静に線を引きます。怒りに怒りで返す必要はありません。
そのような言葉でのお話には、対応いたしかねます。落ち着いてお話しいただけますでしょうか。
ご要望は承りますが、その点については、これ以上お応えすることはできません。
お話を続けることが難しい状況です。本日はこのあたりで失礼いたします。
意図は、「相手の人格」ではなく「その言動・要求」に対して線を引くことです。「あなたは」と主語を相手に向けず、「その言葉には」「その点については」と対象を限定することで、毅然とした態度を保ちながら、礼を失しない表現になります。線を引くことは、相手を突き放すことではなく、対応を続けられる状態を保つための行為です。
これらの言い回しは、録音や記録とあわせて運用してはじめて力を発揮します。録音をどう実装し、現場の対応に組み込むかは、製品(録音の実装)で具体的にご紹介しています。
まとめ
- 録音告知は、品質向上・内容確認のためという事務的な伝え方を基本に。抑止につながる場合はあるが、それだけで防げるわけではない。
- エスカレート時は、クッション言葉で受け止め、事実確認に引き戻し、できる範囲を示す。即答も全面謝罪もしない。
- 終話は予告してから。要件の確認 → 対応範囲の説明 → 終話の予告 → 終話の順で段階を踏む。
- 一人で抱え込まず、上長交代で対応の主体を組織へ引き上げる。
- 線を引くときは、相手の人格ではなくその言動・要求に向けて、冷静に。
スクリプトは一律の台本ではなく、相手の事情や障害特性にも配慮しながら、状況に応じて調整する前提のものです。正当なクレームには誠実に応える姿勢を保ったうえで、一線を越えた言動には組織として一貫して対応する——その土台として、言い回しの型と記録を備えておくことが大切です。マニュアル全体の整え方はカスハラ電話対応マニュアルの作り方もあわせてご覧ください。