「品質向上のため、通話を録音しています」。多くの会社が電話の冒頭で流している案内です。では、その録音を、カスハラの相談があったときの事実確認に使ってよいのでしょうか。品質向上と事実確認は、同じ目的だと言えるでしょうか。
カスハラ対策が義務になった2026年10月1日にあわせて、厚生労働省は「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」というQ&Aの改訂版を適用しました。表紙には「令和8年4月24日(令和8年9月30日改訂(令和8年10月1日適用))」とあります。このQ&Aには、録音・録画について正面から答えた問が2つあります。
この記事でわかること
- 録音を事実確認に使うとき、利用目的について何が求められるか(問9)
- 録音していることを、その場で相手に伝える義務まであるのか(問10)
- 行為者に連絡が取れないとき、録音がどう位置づけられているか(問12)
- 通話録音の運用で、今のうちに見直せる箇所
問9:録音を「そのまま」事実確認に使ってよいか
問9の問いは、顧客等とのやり取りを録音・録画したものを「そのまま事実関係の確認にも用いてよいのか」です(p.14)。
答えは、使ってよいかどうかを一言で述べる形にはなっていません。個人情報保護法の手続きを踏んでいるかどうかに話が移ります。要旨は次の3点です。
- 取得する情報が個人情報に当たる場合、利用目的をできる限り特定し、本人に通知するか公表する必要がある。原則として、特定した利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うことはできない
- カスハラの事案の事実確認に使う場合は、利用目的として「そのような事実関係の確認に使用する場合があること」をできる限り特定し、通知または公表する義務があることに留意が必要である
- 公表の方法としては、たとえば、あらかじめプライバシーポリシー等に利用目的の記載を設け、自社のホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所へ掲載することが考えられる
冒頭の問いに戻ると、確かめる先は電話の案内文ではなく、会社が公表している利用目的の文面です。そこに書かれているのが「サービス品質の向上のため」だけであれば、カスハラの相談を受けて録音を聞き直す使い方が、その文面で読み取れるかどうかを見直すことになります。Q&Aは、事実関係の確認に使う場合があることを「できる限り特定」するよう求めています。
置き場所にも目安が示されました。トップページから1回程度の操作で到達できる場所、という書き方です。プライバシーポリシーへのリンクがトップページのフッターにあり、開いたページに利用目的が載っていれば、この例に沿った形になります。
問10:その場で「録音しています」と伝える義務まであるのか
問10は、録音・録画を行うことをその場で顧客等に伝えていなくても、個人情報保護法との関係で問題はないのか、という問いです(p.15)。
Q&Aの答えは、利用目的を通知または公表する義務はあるが、その義務は「必ずしも録音・録画していることについてその場で伝える義務まで含むものではない」というものです。
ただし、すぐ後に留保が続きます。個人情報保護法は、偽りその他不正の手段で個人情報を取得してはならないと定めています。Q&Aは、少なくとも、カメラの設置状況などから自分の個人情報が取得されていることを本人が容易に認識できるとはいえない場合には、容易に認識できるようにするための措置を講じなければならない、としています。あわせて、関係する通達の内容も踏まえて対応するよう求めています。
注記には、その場で顧客等の同意を得たうえで録音・録画することも、個人情報保護法等を守った対応の例として考えられる、とあります。
この留保は、カメラを例に書かれています。電話の録音にどう当てはまるかまでは、Q&Aは述べていません。確かなのは次の2点です。利用目的の通知または公表は必要であること。そして、その義務は、その場で録音を告げる義務までは必ずしも含まないとされたことです。
それでも冒頭の案内を残す理由
問10を読んで「案内はやめてもよい」と受け取るのは早すぎます。Q&Aが答えているのは、個人情報保護法との関係という一つの観点です。電話の冒頭で録音を伝えることには、相手に録音を認識してもらうという働きと、強い言葉をあらかじめ抑える働きがあります。どちらも、公表した文面だけでは代わりになりません。
当サイトでは、通話録音は違法?カスハラ対策の録音と、証拠としての扱いで、告知を置く運用が望ましい理由を整理しています。案内の言い回しは録音告知・終話・上長交代のトーク例を参考にできます。問10は、告知が要らないと述べたものではありません。告知とは別に、利用目的の公表という手続きがあることを示したものです。
問12:行為者に連絡が取れないとき、録音が確認の材料になる
問12は、相談があったものの、行為者である顧客がすでに立ち去っていて連絡先も分からない場合に、どう事実関係を確認すればよいか、という問いです(p.17)。
Q&Aは、行為者に連絡を取ることが不可能な場合にまで、行為者から事実関係を確認する必要はない、としています。そのうえで、正確に事実関係を確認するため、必要に応じて、周囲の労働者から聴取したり、「録音・録画等の客観的な証拠を確認したり」することが考えられる、と続けます。
電話では、この場面がよく起きます。番号が非通知である、名乗らない、名乗った名前が本当か分からない。相談を受けた上長が確かめようとしても、相手には聞けません。残るのは、電話を受けた本人の記憶と、隣の席で聞いていた人の印象と、録音です。
問9とつなげて読むと、順序が見えてきます。問12で録音を確認の材料にするには、問9の利用目的がその使い方を含んでいる必要があります。録音があることと、その録音を事実確認に使えるよう手続きを整えてあることは、別の準備です。
なお、問14(p.19)は従業員が1名の店舗の例として、十分に説明してもなお繰り返しの要求が続く場合に、一定の時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりすること、対応が難しい場合に本社・本部等へ情報共有して指示を仰ぐことを、あらかじめ定めておく対処の内容として挙げています。一人で受けた電話を本部が後から確かめる場面でも、同じ順序が当てはまります。
通話録音の運用で見直す箇所
問9・問10・問12を踏まえると、確かめる箇所は次の4つに整理できます。ここからは当サイトによる整理で、Q&Aが示した手順ではありません。
- 公表している利用目的の文面:通話録音の利用目的に、カスハラを含むトラブルの事実確認に使う場合があることが読み取れるか。「品質向上のため」だけになっていないか。
- 公表している場所:その文面は、自社のホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所にあるか。
- 冒頭の案内との関係:電話の案内文と、公表している利用目的の内容が食い違っていないか。案内では「品質向上のため」とだけ伝え、実際には事実確認にも使う、という状態になっていないか。
- 社内の手順:相談を受けたとき、誰が録音を聞き、どの範囲で共有するかが決まっているか。利用目的として公表した範囲を超える使い方をしない、という歯止めが手順に入っているか。
1つ目と2つ目は、録音の機器を入れ替えなくても見直せます。3つ目は、案内文を変える場合に電話の設定の変更が要ります。4つ目は、カスハラの記録・証拠の残し方で扱った保存期間や閲覧権限の決め方と一緒に整えると、抜けが出にくくなります。
利用目的の具体的な文面は、会社が扱う個人情報の全体と整合させる必要があります。個人情報保護の担当者や、必要に応じて弁護士などの専門家と相談して決めてください。
まとめ
厚生労働省のQ&A(2026年9月30日改訂、10月1日適用)は、録音・録画をカスハラの事実確認に使うときは、その使い方を利用目的としてできる限り特定し、通知または公表する義務があることに留意するよう求めています(問9)。公表の例として、プライバシーポリシー等に記載し、ホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所に掲載する方法が挙げられました。
その場で録音を伝える義務までは必ずしも含まれないとされましたが(問10)、不正の手段による取得の禁止という留保が付いており、告知をやめてよいという趣旨ではありません。行為者に連絡が取れない場合の確認の材料として、録音・録画等の客観的な証拠が挙げられています(問12)。
録音を始めることと、録音を事実確認に使える状態にしておくことは、別の準備です。義務化された今、通話録音の利用目的の文面と掲載場所を、一度読み直しておく価値があります。
今お使いの電話環境で、どの番号・どの席の通話を録音できるかを確かめたい場合は、製品のご案内から導入形態ごとの違いをご覧いただくか、お問い合わせください。
出典
本文中のページ番号は、Q&Aに印刷されたページ番号です。制度の詳細や最新の情報は、厚生労働省の公表資料でご確認ください。本記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。