通話録音を入れると決めたあと、最初に迷うのは機器の選び方よりも、どこまでを録音するかと、それを相手にどう伝えるかです。かかってきた電話だけか、こちらからかける電話も含めるか。録音したデータは、いつまで残すのか。
三重県は、カスハラ対策の義務化と同じ2026年10月1日に、県庁で通話録音を始めました。9月30日に運用開始を、10月2日に対策の全体を発表しています。どちらも短い発表ですが、録音を始める組織が外に向けて何を伝えたかが、項目ごとに並んでいます。会社が録音を始める前の確認項目として読むと、使いやすい材料です。
この記事でわかること
- 三重県が発表した通話録音の対象・開始日時・告知の仕方
- こちらからかける電話の扱いと、録音データの管理について書かれていること
- 録音と同じ日に始めた、もう一つの取組
- 会社が録音を始める前に決めておく5つの事項
三重県の発表に書かれていること
9月30日付の発表「県庁における通話録音の運用を開始します」は、県職員へのカスハラ対策の一環として、10月1日から通話録音の運用を始めると告げるものです。書かれている項目は、開始日時、対象、目的、運用の4つです。
- 開始日時:令和8年10月1日(木曜日)8時30分から
- 対象:本庁舎(栄町庁舎、勤労者福祉会館、合同ビル、吉田山会館の所属を含む)と、全地域庁舎(桑名、四日市、鈴鹿、津、松阪、伊勢、志摩、伊賀、尾鷲、熊野)
- 目的:カスハラに該当する行為は、職員の萎縮や精神的苦痛、業務の遅滞を招き、本来行うべき業務に十分対応できなくなるおそれがある。組織として毅然とした態度で臨み、質の高い行政サービスの提供と職員の過度な負担の軽減を図る
- 運用:県に電話をかけると、通話が録音される旨のアナウンスが流れ、その後に電話がつながる。通話は自動で録音される
目的の欄では、対象となる行為にも注記があります。行政サービスの利用者等による職員への行為のうち、暴行、脅迫など違法な行為または不当な行為であって、職員の就業環境を害するもの、という定義です。不当な行為には、申出・要求の内容に妥当性がないものと、申出・要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして不相当なものの2つが挙げられています。
こちらからかける電話も、録音の対象に入っている
運用の欄には、もう一文あります。県から電話をかけた際も、アナウンスは流れないが、通話は録音される、という説明です。
録音の話は、かかってきた電話を前提に考えられがちです。けれども、苦情の電話のあとに担当者が折り返す、上長が改めて説明の電話をかける、といった場面は、こちらからの発信になります。やり取りが長引いた案件ほど、発信の通話が記録の中で大きな位置を占めることがあります。三重県の発表は、発信も録音に含めることと、発信ではアナウンスが流れないことの両方を、あらかじめ公表しています。
データの扱いは「法令の遵守」と「自動削除」で書かれている
録音データについては、個人情報の保護に関する法律等を遵守して適正に管理すること、保管の必要がないデータは一定期間経過後に自動的に削除することが書かれています。
ページには、保存する具体的な期間や、録音を聞ける職員の範囲は書かれていません。これは発表に載せていないというだけで、県が決めていないという意味ではありません。内部の運用として定め、外向きの発表には原則だけを書く、という分け方とも読めます。
録音と同じ日に、マニュアルの運用も始めている
10月2日付の発表「県庁におけるカスタマーハラスメント対策を実施します」では、10月1日から新たに始めた取組が2つ挙げられています。
- カスタマーハラスメント対応マニュアルの策定・運用:カスハラへの基本的な対応方針・方法等を記載した内部用のマニュアルを策定し、カスハラに該当する行為には組織的な対応を行う
- 通話録音の運用:9月30日の発表と同じ内容(アナウンス、発信時の扱い、法令の遵守と適正な管理、対象の庁舎)
録音は、単独の施策としてではなく、対応方針を書いたマニュアルと同時に始められています。録音があっても、それを誰が聞き、どの場面で上長が引き取り、どう記録するかが決まっていなければ、組織的な対応にはつながりにくいためです。マニュアルの中身は内部用とされていて、公表されていません。
会社が録音を始める前に、決めておく5つのこと
ここからは当サイトによる置き換えです。三重県の発表の項目を手がかりに、会社が録音を始める前に決めておく事項を5つに整理します。県の運用をそのまま会社に当てはめるものではなく、項目の並べ方を借りる整理です。
- 録音する範囲:どの拠点の、どの番号・どの席の通話を録音するか。代表番号だけか、部署の直通番号や携帯電話も含めるか。三重県は庁舎の単位で対象を示しています。会社では、電話機や回線の構成によって、録音できる範囲が設備側で決まってしまうことがあります。
- 発信の扱い:こちらからかける電話を録音するか。録音する場合、相手にどう伝えるか、あるいは伝えないのか。折り返しの電話が録音の対象から外れていると、一連のやり取りのうち半分だけが残る、という状態になりえます。
- 告知の方法と文面:着信時のアナウンスで何を伝えるか。録音していることだけか、利用目的まで添えるか。冒頭の案内の例は録音告知・終話・上長交代のトーク例にまとめています。
- 利用目的と公表の場所:録音をカスハラの事実確認に使うなら、その使い方が利用目的として読み取れる形で、通知または公表されているか。厚生労働省のQ&Aとの関係は通話録音の「利用目的」にカスハラの事実確認は入っているかで整理しました。
- 保存期間と削除、聞ける人:何日(何か月)残し、期間が過ぎたらどう消すか。消さずに残す録音は、誰の判断で、どこへ移すか。録音を聞ける人は誰か。保存と閲覧の決め方はカスハラの記録・証拠の残し方で扱っています。
5つのうち、外向きに公表するのは3と4、それに1と2の要点です。5は内部の取り決めとして文書にしておき、問い合わせを受けたときに答えられる状態にしておく、という分け方が考えられます。三重県の発表は、自動削除という原則は外に示し、具体的な期間はページに載せていません。
録音と対応の手順は、同じ日に動かす
もう一つ、三重県の発表から読み取れるのは順番です。録音とマニュアルを同じ日に始めています。会社でも、録音の機器が先に入り、対応の手順が後から追いつく、ということがあります。録音を始める日までに、少なくとも「録音を聞く必要が出たとき、誰に頼むか」と「上長へ引き継ぐ目安」の2点は決めておくと、録音が使われないまま溜まるだけになるのを避けられます。
自治体の窓口に特有の事情は、自治体・行政窓口のカスハラ対策で扱っています。
まとめ
三重県は2026年10月1日8時30分から、本庁舎と全10地域庁舎で通話録音を始めました。発表には、着信時にアナウンスを流してから電話がつながること、県からかける電話もアナウンスなしで録音されること、録音データは個人情報の保護に関する法律等を遵守して適正に管理し、保管の必要がないものは一定期間後に自動で削除することが書かれています。あわせて、内部用のカスハラ対応マニュアルの運用を同じ日に始めています。
会社が録音を始める前には、録音の範囲、発信の扱い、告知の文面、利用目的と公表の場所、保存期間と聞ける人の5つを決めておくと、始めたあとに運用が揺れにくくなります。このうち範囲と発信の扱いは、今の電話設備で何ができるかに左右されます。
今お使いの電話環境で、どの番号・どの席の通話を、着信と発信のどちらまで録音できるかを確かめたい場合は、製品のご案内から導入形態ごとの違いをご覧いただくか、お問い合わせください。
出典
- 三重県 総務部 人事課「県庁における通話録音の運用を開始します」令和8年9月30日 発表ページ
- 三重県 総務部 人事課「県庁におけるカスタマーハラスメント対策を実施します」令和8年10月2日 発表ページ
本記事は公表資料に基づく一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。録音の利用目的や告知の要否は、個人情報保護の担当者や、必要に応じて弁護士などの専門家と相談して決めてください。