2026年10月1日のカスハラ対策義務化まで、二か月を切りました。準備の中心になるのは、方針の明確化と周知、そして相談に応じ適切に対応するための体制の整備です。ただ「窓口を作る」と決めたとき、それが誰に向いた窓口なのかまでは、決めた側からは見えにくいところがあります。2026年8月7日に公表された政府統計は、その点を考える材料をいくつか含んでいます。この記事では、公表された数値を確認しながら、指針が求める措置と照らして整理します。

この記事でわかること

  • 2026年8月公表の労働安全衛生調査で、強いストレスがある労働者のうち顧客等からのクレームを挙げた割合
  • 就業形態によってその割合がどれだけ違うか
  • ストレスを相談できる人がいる労働者の割合と、実際に相談した労働者の割合

強いストレスがある労働者のうち22.1%が「顧客、取引先等からのクレーム」

厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスと感じる事柄がある労働者の割合は67.5%(令和6(2024)年調査68.3%)でした。

その内容(主なもの3つ以内)を、強いストレスと感じる事柄がある労働者を100として見ると、次のようになっています(第17表)。全労働者を100とした割合ではない点にご注意ください。

内容令和7(2025)年令和6(2024)年
仕事の量39.5%43.2%
仕事の失敗、責任の発生等39.5%36.2%
対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)32.9%26.1%
仕事の質30.7%26.4%
顧客、取引先等からのクレーム22.1%20.7%
会社の将来性20.5%22.2%

顧客等からのクレームは22.1%で、前年の20.7%から1.4ポイント増えています。増え幅がより大きいのは対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)で、26.1%から32.9%へ6.8ポイント上昇しました。

ここで注意しておきたいのは、この調査の区分が「顧客、取引先等からのクレーム」であって、カスハラを定義して尋ねたものではないという点です。事実にもとづく改善要望や、相当な手段でなされる苦情も、労働者がストレスと感じていればこの区分に含まれうることになります。どこまでが社会通念上の一線を越えたものだったのかは、この調査からは読み取れません。正当なクレームとカスハラの違いは正当なクレームとカスハラの違いで整理しています。

なお、この調査は常用労働者を10人以上雇用する民営事業所とそこで働く労働者を対象としたもので、有効回答は8,054事業所および8,393人です。

割合が最も高いのはパートタイム労働者の29.8%

同じ第17表を就業形態別に見ると、顧客等からのクレームを挙げた割合には差があります。以下も、それぞれの就業形態で強いストレスと感じる事柄がある労働者を100とした割合です。

就業形態顧客、取引先等からのクレーム対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)
正社員19.5%32.5%
契約社員13.8%37.8%
パートタイム労働者29.8%38.5%
派遣労働者3.3%30.1%

パートタイム労働者が29.8%で最も高く、正社員の19.5%を10.3ポイント上回っています。対人関係についても、パートタイム労働者の38.5%が四つの就業形態のなかで最も高い値です。

ただし、強いストレスと感じる事柄がある労働者の割合そのものは、正社員69.1%に対してパートタイム労働者61.7%で、パートタイム労働者のほうが低くなっています。母数が就業形態ごとに異なるため、上の表の数値をそのまま「その就業形態の全員に対する割合」として読むことはできません。

差が生じている理由も、この調査からは読み取れません。就業形態そのものではなく、就業形態ごとに従事する業務の構成が違うことが反映されている可能性もあります。年齢階級別では50〜59歳の29.3%が最も高く、40〜49歳が22.3%、30〜39歳が14.9%と、階級によって値が動いています。

読み取れるのは、顧客等からのクレームをストレスの原因に挙げる割合が、就業形態や年齢階級によって一様ではないということまでです。

相談できる人はいる。実際に相談した割合は下がっている

同じ調査には、ストレスの相談状況についての設問もあります。

仕事や職業生活での不安、悩み、ストレスについて相談できる人がいる労働者の割合は94.8%(令和6(2024)年調査94.6%)でした(第18表)。ここで答えられているのは「相談できる人がいる」ことであり、勤務先に相談窓口があるという意味ではありません。相談できる人には家族・友人も含まれます。

一方で、相談できる人がいる労働者のうち、実際に相談したことがある労働者の割合は71.2%(同74.7%)で、前年から3.5ポイント下がっています。実際に相談した相手(複数回答)は「家族・友人」が68.3%(同62.1%)で最も多く、次いで「上司」が56.6%(同58.9%)でした(第19表)。複数回答であるため、家族・友人を挙げた人が職場の誰かにも相談したかどうかは、この数値からは分かりません。

この設問は仕事全般のストレスについてのもので、カスハラに限定されていません。社内の相談窓口の利用率を示すものでもありません。それでも、相談できる人がいると答えた割合と、実際に相談した割合との間に差があること自体は、体制を設計するうえで確認しておく価値があります。

事業所側の数値も公表されています。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.0%(同63.2%)で、事業所規模別には労働者50人以上で93.7%、30〜49人で72.0%、10〜29人で54.6%と、規模による差が出ています(第2表)。これはメンタルヘルス対策についての数値であって、カスハラ対策の実施状況や、その整備にかかる負担を測ったものではありません。

指針が求める措置と、統計から確認しておきたい点

改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日からカスハラ対策は全企業の措置義務になります。措置の中身を示すカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、講じなければならない措置として、方針の明確化と労働者への周知・啓発、相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認および適正な対処、再発防止に向けた措置などを挙げています(措置の全体像は2026年10月、カスハラ対策が義務化で扱っています)。

この指針は「労働者」を、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等のいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者の全てと定義しています。派遣労働者についても、派遣元だけでなく派遣先が講ずべき措置の対象になる部分があります。

今回の統計とあわせると、体制の整備について確認しておきたい点が見えてきます。

  • 顧客等からのクレームをストレスの原因に挙げる割合は、就業形態によって一様ではない。一方で指針の対象には非正規雇用労働者も含まれる。勤務形態や勤務時間帯にかかわらず使える受付方法・受付時間になっているか
  • 相談できる人がいると答えた割合と、実際に相談した割合には差がある。窓口を定めたかどうかだけでは、使われているかは分からない
  • 相談したことで不利益な取扱いを受けないことが、労働者に伝わっているか(指針は、相談したこと等を理由とする不利益な取扱いの禁止を定め、その周知・啓発を求めています)

いずれも、窓口を設置したかどうかでは確認できない項目です。

相談を受けた後に、何が起きたかを確認できるか

相談の申出があった場合に指針が求めるのは、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することです。

電話や窓口での出来事は、担当者の記憶に頼ると、時間の経過とともに細部が曖昧になります。指針は、事実関係を確認していると認められる例として、相談者から事実関係を確認すること、そして必要に応じて周囲の労働者からも聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりする等の措置を講ずることを挙げています。あわせて、録音・録画等を確認するにあたっては個人情報の保護に関する法律等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うことも求めています。

顧客等とのやり取りを録音・録画することは、あらかじめ定めておく「対処の内容」の例の一つとしても挙げられています。ただし指針は、これらの例が限定列挙ではなく、各事業主が労働者の状況等の実態に応じて対処の内容を定めるものだとしています。録音がなければ義務を果たせない、という関係ではありません。録音の法的な位置づけと証拠としての扱いは通話録音は違法?証拠の扱いで整理しています。

なお、事案の内容や対応経緯を記録して関係部門に共有し、再発防止に活用することは、指針では「必要に応じて」「考えられる」ものとして記載されており、録音・録画と同じく、講じなければならない措置そのものとしては書かれていません。記録の残し方全般はカスハラの記録・証拠の残し方で扱っています。

今回の統計は、記録の有無と相談の実施率との関係を調べたものではありません。録音や記録を整えれば相談が増える、という関係を示すものではない点は補っておきます。

まとめ

  • 令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」(2026年8月7日公表)では、強いストレスと感じる事柄がある労働者のうち22.1%(前年20.7%)が「顧客、取引先等からのクレーム」を挙げた。全労働者に対する割合ではない。
  • 就業形態別ではパートタイム労働者が29.8%で最も高く、正社員19.5%を10.3ポイント上回った。ただし母数は就業形態ごとに異なり、差が生じた理由も調査からは読み取れない。
  • この区分はカスハラを定義して尋ねたものではなく、正当なクレームを含みうる。
  • ストレスを相談できる人がいる労働者は94.8%だが、そのうち実際に相談したのは71.2%(前年74.7%)。ただしこれは社内窓口の利用率ではない。
  • 指針は「労働者」に非正規雇用労働者を含むと定義している。窓口を定めたかどうかだけでは、勤務形態を問わず使える状態かは確認できない。
  • 録音・録画や対応経緯の記録は、指針では対処の例・事実確認の例として挙げられており、講じなければならない措置そのものとしては書かれていない。

電話や窓口での相談を受けたあとに、事実関係を確認できる状態になっているか整理したい場合は、現在の電話環境、相談の受付経路、記録の保存方法をあわせてご相談ください。

本記事で紹介した数値は、厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」結果の概況第17表・第18表・第19表、事業所調査の結果の概況第2表、報道発表資料)によるものです。措置義務の内容はカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)、施行日は厚生労働省の公表資料(職場におけるハラスメントの防止のために令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について)によります。最新の情報は厚生労働省の公表資料でご確認ください。本記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。